地図における投影法の数学

地図をつくることは、地球の表面(球面)を、平面に投影する方法を考えることである。そこで地図考案者は数学的な技術に長けている必要がある。
円錐や円柱は平面に展開可能な曲面である(可展面)。そこで、円錐や円柱にまず射影し、そのあと平面に展開することもある。それぞれを円錐図法、円筒図法という。緯度と経度を用いて作られた最古の地図であるプトレマイオスの地図は、円錐図法を採用している。

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ここで、緯度と経度について数式で説明しよう。

緯度(latitude)は\varphiで表される。-\frac{\pi}{2} \leqq \varphi \leqq \frac{\pi}{2}

赤道を基準として、北緯をプラス、南緯をマイナスとする。

経度(longitude)は \lambdaで表される。-\pi \leqq \lambda \leqq \pi

東経をプラス、西経をマイナスとする。

このとき、球面上の点Pは、半径Rを用いて、

P=(R\cos\lambda\cos\varphi,R\sin\lambda\cos\varphi,R\sin\varphi)

と表すことができる。球の面積要素は以下のように計算できる。

d\sigma= \displaystyle{\left|\frac{\partial P}{\partial \lambda}\times\frac{\partial P}{\partial \varphi}\right|}=R^2\left|\cos\varphi\right|

面積要素を積分すると、曲面の面積を求めることができる。

 

地図は大まかに分類すると、以下のようになる。
 ○等角図法(局所的に角を保つ)
  ・メルカトル図法
       ・立体射影
 ○等積図法(面積を保つ)
  ・モルワイデ図法
  ・サンソン図法
  ・ボンヌ図法
 ○正距離図法(基準点からの距離を保つ)

 ○正方位図法(基準点からの方位を保つ)

 

すべての条件を備えた地図はできるだろうか?

例えば、地球上の任意の2点間の距離を保つ地図はできるだろうか? 

球面と平面では、互いをどんなに小さく分割しても、計量(metric)を保ったまま重ねることはできない。もし可能ならガウス曲率が一致しなければならないが、球面と平面では異なる。したがって地図を作る際には、幾つかの不都合な点に目をつぶらなければならない。メルカトル地図は等角なので航海図としては利用できるが、極地のひずみが大きくなる欠点がある。正距方位地図は、基準点から各地点への距離が保たれるが、中心から離れるほど、ひずみが極端に大きくなる。

ここで方位について説明しておくと、地球上に基準点(極以外)を取り、基準となる方角(例えば北)を決める。基準点以外の任意の点を取り、その点への測地線(大円)を考え、測地線方向のベクトルを1つ取る。このベクトルと、北方向のベクトルのなす角のことを方位角とよぶ。地球表面上では方位角方向に進むのが最短経路となるが、これはメルカトル地図の等角航路とは異なる。メルカトル地図上で2点を結ぶ直線を引くと、この直線は緯線(経線でもよい)と常に一定の角をなす。この直線に沿った経路を等角航路とよぶのだが、この経路を地球上で描くと、大円航路にはならない。しかし、経路が緯線(経線)と常に一定の角をなすので、方位磁針を使って移動する際には都合がよい。

 

* 等角図法について
1次変換が等角であるとは、スカラー行列(拡大縮小)と、直交行列(回転)の積で表せることで定義できる。
一般の曲面の間の写像が等角であることを判定するためには、曲面上に接平面を考え、その平面を標準的な平面と同一視することによって正規直交基底となるベクトルを2つ選ぶ。これによって、曲面の間の写像を、標準的な平面の間の線形変換によって近似する。写像の1次近似である線形変換はヤコビ行列によって表される。この行列が上記の等角条件を満たせばよい。

メルカトル図法

ランベルト関数を L(\varphi)=\displaystyle{\int_0^{\varphi}\frac{dt}{\cos t}}で定義し、

\begin{cases} x=\lambda \\ y=L(\varphi) \end{cases}により、メルカトル射影を定める。

ヤコビ行列はJ= \begin{pmatrix} 1 \qquad 0 \\ 0 \quad \frac{1}{\cos \varphi} \end{pmatrix}となる。

 \displaystyle{p_1=\frac{\partial P}{\partial \lambda},p_2=\frac{\partial P}{\partial\varphi}}を正規化したベクトルを\displaystyle{e_1=\frac{p_1}{R\cos \varphi},e_2=\frac{p_2}{R}}とおく(すでに直交している)。これらの基底の間の変換行列は\begin{pmatrix} \frac{1}{R\cos \varphi} \quad 0 \\ 0 \qquad \frac{1}{R} \end{pmatrix}となる。

球面から平面への写像(射影)なので、行き先の平面を標準的な平面と考え、正規直交基底をe_1'=(1,0),e_2'=(0,1)とおく。
e_1',e_2'からe_1,e_2への変換行列は、J= \begin{pmatrix} 1 \qquad 0 \\ 0 \quad \frac{1}{\cos \varphi} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} \frac{1}{R\cos \varphi} \quad 0 \\ 0 \qquad \frac{1}{R} \end{pmatrix}の積で求めることができ、それは\frac{1}{R\cos\varphi} \begin{pmatrix} 1 \quad 0 \\ 0 \quad 1 \end{pmatrix}となるので、等角条件を満たしている。

 

 * 等積図法について
球面上で同じ面積をもつ領域が、平面上でも同じ面積をもつためには、変換によって面積要素が常に一定(点ごとに異なることなく全曲面上で一定)となることが必要十分である。そのためには、変換のヤコビ行列式と、球の面積要素R^2\left|\cos\varphi\right|の比が任意の点で一定の値にならなければならない。

・ランベルト円筒等積図法
一見メルカトル図法に見えるが、式はメルカトル図法よりも遥かに単純である。

 \begin{cases} x=\lambda \\ y=\sin\varphi \end{cases} ヤコビ行列式\cos\varphiとなるので等積である。

・サンソン図法(sinusoidal projection
経線がサインカーブとなるので、sinusoidal とよばれる。

 \begin{cases} x=\lambda \cos\varphi \\ y=\varphi \end{cases} ヤコビ行列式\cos\varphiとなるので等積である。


・ボンヌ図法、ウェルナー図法

 

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日付変更線の平面での像を、GrapesやGeogebra(関数グラフ - GeoGebra)を使って描いてみてほしい。いったいどうやってこのような図法を見つけたのか、非常に不思議で興味を惹かれる。